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恵比寿横丁 流し 現役 パリなかやま 流しの仕事術

出逢いを求める女子と先生【実録!流しの仕事術】第2夜

パリなかやま

パリなかやま

流し、それはアナタを元気にするオシゴト。実録!流しの仕事術は、現役の流し・パリなかやまが、横丁の徒然なる日々を語ります。

女同士の反省会

□月▲日

近年、恵比寿横丁の週末、金土はもっぱらナンパナンパナンパの傾向である。ここはいつの間にかナンパのメッカになってしまったようだ。近頃は勝負をかける時間がどんどん早くなってきている!20時ごろからナンパが横行している。つまり私の出勤する頃にはもうナンパ時間に入ってしまっているのだ。

恵比寿横丁 流し 現役 パリなかやま 流しの仕事術古来、横丁の人々は22~23時まで、まずそれぞれの席で飲み、そこから近隣席となんとなく絡み出す、というのが流儀であった。ここから何段階もの飛躍があり近年の状況がある。いっそもう最初から一緒に飲もう、というわけだ。

当初は必ずしも男と女がコラボするということではなかった。女性の数がかなり少なかったせいもある。飲みながらの気分で、人類愛に目覚め、近隣と仲間意識が生まれて男女問わず仲良くなる、そんな自然の流れがあった。特に、流しの歌をきっかけに、別々のテーブルが一つに混ざりあっていくことも多く、それを見ると私も「ああ、流しは世界平和に貢献している」なんて思ったものだ。だが、それも今は昔。とにかく今、週末はナンパの応酬である。

そんな週末喧噪のピークタイムをひと山こえ、近所の憩いの場、猿田彦珈琲に入った時のこと。隣席に来たるは女子2名。しばらくすると私に気づき、「あ~、さっきのギターの人だあー」と話しかけてくる(この娘達からリクエストは受けていない)。話を聞いていると、どうやら横丁は初めてらしく、出会いを求めてきたが……駄目だった、などという反省会をしているところなのだとか。つまりナンパされなかったんですね。「私たち何がダメなんですかね~?」とかウーウー呻いている。(まあ顔だろうね)とは口が裂けても言えないので「ポジショニングが良くなかったね」など適当なアドバイスをして元気づける。今日も平和だった。

酩酊するロマンスグレー

□月◯日

私のことを「先生、先生」と呼ぶこの人は、もう還暦を過ぎている感じの、年に数回だけ登場する流しユーザーである。風貌は白髪になったベンゾーさんをイメージされたい(キテレツ大百科参照)。私よりよっぽど先生らしい見た目だ。なので私もその方を「先生」と呼んでいる。つまり先生でもない人間同士が「先生~、センセイ~」と呼び合っている図になる。名前や正体が不明な男性のお客さんを呼ぶときは「社長」「先生」「旦那」「兄さん」「ミスター」と主にこの5通りを使う。

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先生はたいてい独りで横丁に来られる。今日もそうで、私が呼ばれた場合、隣に座り一杯いただきながら、演奏する以上にお話を聞くことが多い。先生は特にジャズが大好きだ。私はあんまりジャズに詳しくない。だから質問をする。音楽が好きな人がするその話は熱意と歓喜に満ちていて何だか心が洗われる(話が長すぎることもあるが)。世界を股に掛けた金融マンだったらしい先生は、往年の世界的ジャズプレイヤーとロンドンの酒場で会ったんだよぉ~、etc.etc.話がつきません。

しかしながら、時が経つと酩酊してくるのが先生のパターン。その前に是非とも演奏をさせてもらわねばならない。先生の出現自体レアなのだが、それ以上レアなのが選曲だ。ロングテール戦略で曲目を増やし続けている私の努力が報われる時である。そして同時に音楽ファンである先生のオファーにちゃんと応えられるかどうか、スリリングな瞬間だ。「you’ve gat a friend」「朝日のあたる家」など歌う。(ああ今夜は無事こなせた)先生は「いいねぇ~センセイ、いいねぇ~」と喉を鳴らす猫のごとくに喜んでくれる。やがて会話は途切れ、私はギターを優しく鳴らす。先生はウトウト船を漕ぎだす。突っ伏して夢の中へ入られたようなので、私はそっと腰を上げた。

(文・パリなかやま)

ライタープロフィール

2008年、亀戸横丁で流しデビュー。2009年、恵比寿横丁流し参入。現在、恵比寿横丁にて20時~平日中心に営業。平成流し組合代表。有楽町、新橋、吉祥寺、蒲田などの街とも提携中。レパートリーは昭和から平成の、演歌からJPOP、洋楽まで含め2000曲ほど。大抵のことは笑顔でこなすピースな流し。出張流しでは冠婚葬祭、同窓会、送別会、あらゆる催しにて活躍中。野外、個人宅、屋形船、温泉宿、喫茶店、場所を選ばずオンデマンド対応。2014年書籍「流しの仕事術」を代官山ブックスより発売。