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流し 恵比寿横丁 パリなかやま

アラサー男子とブルージーなブリっ子【実録!流しの仕事術】第1夜

パリなかやま

パリなかやま

流し、それはアナタを元気にするオシゴト。実録!流しの仕事術は、現役の流し・パリなかやまが、横丁の徒然なる日々を語ります。

「先走るアラサー」

◯月●日

近年の恵比寿横丁は、週末の客層が若い。お客さんに特別な趣味がなければ、リクエストはほとんどJ-POPで事足りてしまい、昭和歌謡のリクエストがほぼ皆無で少し寂しい。

今日はアラサー男子たちに歌う。この世代はミスチルあたりが最大公約数的なリクエストだ。曲は「HANABI」。言葉の歌いまわしが単純でなく、歌詞もかなり詰まっているため、ちょっとメロディを覚えても歌いきることができない。流しとしては、最初に“間違って覚えない”ことが大切である。

この難しい歌だが、普段カラオケで歌っているらしい彼等の方がぐいぐいリードしてくれる。サビでエキサイトし、合唱になる。1番が終わるところで、すでにかなりマックスなテンションだ。こうなると2番に進まず、一気にエンディングの「もう1回、もう1回」の肝フレーズにワープしてしまう。よくある先走りのケースだ。間違っているからと、これを遮ってしまうのは野暮で、流しはこれに合わせる。

出たとこ勝負のサービス業、それが流しであります。

エンディングに行ってしまったら曲はそれでオシマイになる。しかしこの「もう1回、もう1回」コールは止まない。グラスを持つとそれは「もう1杯、もう1杯」に変化して彼等は順番に中の酒を飲み干していく。この曲をやると、これがお約束の展開なのだ。この「儀式」はどこが発祥なのだろうか――など思いながら眺める。

恵比寿横丁 パリなかやま 現役流し

「ブルージーなブリっ子」

◯月▲日

横丁に「スナック訳あり」という、カラオケスナックがある。店ごとのドアが無い横丁空間の中で「スナック訳あり」は希少な密室だ。エアコンも良く効いている。

カラオケがあるので、このような店に流しは要らない。ただ、お客さんは中で飲んで歌いまくっているから結構ハイになってる人が多く、トイレに行きがてら、よく流しに絡む。すでに気が大きくなっているから「ギター伴奏で歌わせろ!」という元気なお客さんが必ずいる。

流し 恵比寿横丁 パリなかやま今日は神奈川でスナックを営むというママ。リカと名乗る。

「スナックやってるんじゃ、普段も歌いまくっているんでしょ?」と問えば、「お客さんが歌わしてくんないのよー」と。そんでもって「流し伴奏でも歌いたいわ~」と、ぷりぷりとカラダを震わせてくる。これが「酒焼け」という喉なのか、元来ハスキーなのか、ブルージーな歌声。「異邦人」を歌う。

この我々2人の歌謡ショーは一体どこでやっているのかといえば、横丁内の通路だ。トイレに行きがてらなので、歌うための陣地がない。仕方ない。

近所迷惑にならない程度に歌って満足して、流しにもちゃんとお金を払って、またカラオケに戻ってくれれば問題ない。だが、リカは生来のディーバなのだろう。近隣の店舗の客に「ねえ、何が聴きたい?あたし歌うよ」とリクエストを募りだした。トイレに行くためと店から出てきた、その事実は彼女の頭から失われているようであった。

(文・パリなかやま

ライタープロフィール

2008年、亀戸横丁で流しデビュー。2009年、恵比寿横丁流し参入。現在、恵比寿横丁にて20時~平日中心に営業。平成流し組合代表。有楽町、新橋、吉祥寺、蒲田などの街とも提携中。レパートリーは昭和から平成の、演歌からJPOP、洋楽まで含め2000曲ほど。大抵のことは笑顔でこなすピースな流し。出張流しでは冠婚葬祭、同窓会、送別会、あらゆる催しにて活躍中。野外、個人宅、屋形船、温泉宿、喫茶店、場所を選ばずオンデマンド対応。2014年書籍「流しの仕事術」を代官山ブックスより発売。