階段つれづれ~物語・六「四谷階段 其の壱~住宅地を縫う階段~」
番町皿屋敷、牡丹灯籠と並ぶ日本三大怪談のひとつ「四谷怪談」はご存知でしょうか?
四谷怪談の物語自体は創作ですが、舞台は現在の豊島区雑司が谷だそうです。実在するお岩さんは旦那さんと仲むつまじく暮らし一生懸命働く健気な女性だったとのことですよ。
でも、四谷怪談といったら新宿区の四谷を思い浮かべてしまう人もいるのではないでしょうか?私もその一人です。
そんな四谷にひっそりとたたずむ階段がありましたので2話連続でご紹介。
東京都新宿区「四谷階段 其の壱~住宅地を縫う階段~」
新宿区の富久町との境目にあるこの階段。見上げると“ゴール”が見えません。なぜなら、家と家の間を縫うように階段があり、ギュッと曲がっているからです。
早速上ってみましょう。
下の14段ほどは素材が白味がかっています。5段目には三角形の出っ張りがあり、住人の植木置き場になっていました。
他の段も微妙に曲がったり入ったヒビはそのままになっていたりしています。先に住宅地の境界が来上がっていて、後から階段を作ったのかな?
変化を見せるのは15段目から。ここから黒く古びた階段になり、苔も目立ってきます。14段より下は後から修理したのでしょうか。一つの階段も、使えるところは使って大切に使用しているんですね。
下から見上げるとゴールが見えない原因は26段目の右カーブでした。
右カーブには張り紙がありました。
「この先行き止まり」
「OK」
どっちなのでしょうか?この「OK」は何を意味しているのでしょう?
上に抜ければ住宅地を歩けるので、そういう意味では「OK」です。この張り紙もかなり年月を経たもののようですので、張られている間に事情がいろいろ変わっているのかもしれませんね。
30段目からは左手が石垣になります。お城の大きな石垣も立派ですが、住宅用の壁として積まれた石垣もなかなかのもの。組まれ方も立派で年月を感じます。
こうした道や石垣が残り続けているのは嬉しいです。まるっと大きな事業者に買い取られて、まっすぐな坂にでもなってしまったら、なんというか味わいがなくなってしまって寂しいものです。
もし、最初に道路ありきで設計されていたならば、こんなクネっとした階段を作るわけがないと思うんです。住宅があって、人が生活していて、その人たちの生活のために作った階段なのでしょう。
もしくは、昔は一人の地主の土地だったのが分割することになったため、通路が必要になり作られた階段か。
きっとこの階段には僕の想像も及ばない誕生秘話があるのでしょう。
「あなたって表裏がなくって信用できます。でも謎めいた所がなくって何か惹かれませんよね」
持ち上げられた後に落とされるのはほんとうにキツいのですが、やっぱり謎めいた部分を随所に散りばめ、ミステリアスさを保っておきたいなあと思いました。
歴史ある所に深みあり。僕の45年の人生も深みあるものにしておきたいものです。
■階段情報をお知らせください
味のある階段をご存知の方、ぜひTwitter「@odaiji」までご一報ください。付近を立ち寄った際にはぜひ訪れたいと思います。
(文・奥野大児)