傷つくことが成長への第一歩。少女が1人で歩いていくまでの道「NANA」第3回〜成長編〜
アフターファイブに読んで欲しい漫画たち。前回に引き続き紹介するのは、矢沢あい原作の恋愛漫画「NANA」です。今回は、主人公2人の少女の成長が深く描かれる本作を紹介する『成長編』です。
※大きなネタバレを含みます。ご注意ください
第1回:友情を超える絆で結びつくW主人公「NANA」第1回〜主人公編〜
第2回:絡みつく人間関係、恋がしがらみを生む「NANA」第2回〜ブラスト・トラネス編〜
奈々の成長
主人公・小松奈々の妊娠により大きく物語が動く本作。奈々も、もうひとりの主人公・大崎ナナも、まだ20歳という若さ。大人として振る舞うにはまだ経験が足りない少女です。特に奈々は定職に就いておらず、フリーターとして生活していたことから1人で子供を育てるための財力がない状態でした。
そのことから、奈々は大好きなノブではなくミュージシャンとして成功しているタクミを選びます。そこからの奈々は、「少女」ではなく「母親」となっていくのです。
産む決意をしてからの奈々の行動基準は全て「子供」。今までは「恋愛」が奈々を動かす原動力となっており、妊娠も後先考えず自身の感情を優先して動いた結果です。しかし、母親となってからは落ち着きを見せ、精神的にもしっかりしていきます。
甘えん坊の奈々は常に彼氏がおり、ナナをはじめ周囲の人間に対してもかなり頼っていた状態。それが妊娠したことにより地に足が付き、誰かにくっつくのではなく、自分の人生を歩み始めるのです。
ナナの成長
奈々が妊娠を機に、ルームシェアをしていたマンションを出たことにより、ナナの精神はかなり不安定なものとなります。幼い頃に母親に捨てられたトラウマから周囲の人間が自分の前からいなくなってしまうことに強い恐怖を抱くナナ。
ほぼ同時期にナナが所属するバンド「BLACK STONES」(以下、ブラスト)がプロデビューします。しかし、その精神的な脆さから、念願だったプロデビューだけでは自分の精神を支え続けられません。
彼女の根底には、奈々や恋人のレン、そしてバンドメンバーが近くにいてほしいという強い願いがあるのです。しかし現実問題、いつも全員がナナの傍にいられるとは限りません。理想と現実の狭間で板挟みとなり、周囲の人間が自分の思うように動かないことへの不満が募っていきます。
そんなナナにレンはプロポーズをします。そこからナナの心にも少しずつですが、人を「縛る」のでなく「見守ろう」とする変化が表れてきます。
失敗から学び、そして変わる
他者の存在は、時に自分の心を大きくかき乱し、それがマイナスに働けば感情のコントロールを奪うこともあります。しかし、プラスに働ければ自身を成長させる存在となっていくのです。
ナナと奈々、彼女たちは互いに誰かが傍にいたことで自分の人生を歩けた少女でした。
多くの人間と出会い、傷つけ傷つけられるのを繰り返して経験を積んでいくことで、精神的に大きく成長します。心がボロボロになった時、はじめて自身の言動を省みるようになる2人。そこで自分の言葉が相手を縛りつけて、追いつめていたことに気付きます。
自分のことばかり考えていたことを自覚し、自己嫌悪したことで、今までとは違う行動をするようになっていくのです。
最初から完璧な人間などいません。いろいろな経験によって、人は大きく成長していきます。本作は少女が1人で歩いていくためだけの強さを身に付けていく物語でもあるのです。
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(文・ブルネイ)