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式の前日 穂積 恋愛

誰かをひっそり見守る人々を描いた短編集「式の前日」

ブルネイ

アフターファイブに読んでほしい漫画たち。今回紹介するのは、穂積・作「式の前日」です。

全6本の短編が収録されており、そのどれもが誰かを見守るストーリーとなっています。今回は、何気ない”日常”が描かれた『式の前日』と『あずさ2号で再会』を紹介します。

晴れ舞台を前日に控えた男女『式の前日』

式の前日 穂積 恋愛

表題の「式の前日」は作者・穂積のデビュー作であり、たった16Pという短さに濃縮された物語は読了後に涙を誘います。

登場人物は、結婚という人生の一大イベントを控えカラ元気に振る舞う女性と、その女性の側にいる男性。2人が式の前日に最後の1日を過ごす姿が描かれます。

結婚は女性にとっての晴れ舞台。女性はウェディングドレスを着直してみては別のドレスにすればよかったと言ったり、会場の席配置は失敗したかもと呟いたりなど、常に明日の式への不安が滲み出ます。そんな女性に、男性は「大丈夫」「心配ない」と言い続けます。女性とは対照的に一貫して彼は落ち着いた様子を見せます。

結婚式の前に繰り広げられる、“日常”の光景には温かみがあります。

しかし、本作はこの何気ない日常に大きな意味が含まれています。作者が仕掛けたミスリードによって、読了後の印象が大きく変わることでしょう。デビュー作とは思えないほどの完成度の高さが作者の力量を物語っています。

1年に1度しか会えない父娘『あずさ2号で再会』

式の前日 あずさ2号で再会

そしてもう1つ紹介したいのが『あずさ2号で再会』です。

本作の主人公・あずさのもとには1年に1度、別れた父親が訪れます。母親は外出中で、1年ぶりの父娘水入らずの時間を過ごす本作もまた、『式の前日』同様に大きな仕掛けが隠されています。

1年ぶりに会ったあずさは幼いながらにも母親が外出中に留守番をしっかりとし、父が元気に暮らしているか心配するまでの余裕を見せます。その姿があまりにあずさの母親に似ていたため、父親は「あいつそっくり」と何度も呟きます。

父親が思う以上に娘の成長は早く、時の流れを感じた父親は感慨深げに娘の背中を見つめます。短い時間を2人で過ごし、「また来年」と言って再び父親はあずさの家を後にします。

『式の前日』と同じく、ここでも“日常”が描かれます。傍目には何気ない日常でも、2人にとってはとても大事な時間です。

離れて暮らす父親はその大事な時間の中で、娘とたくさんの言葉を重ねて成長ぶりを実感します。ラストで、父親があずさと暮らせないわけが分かります。1年に1度の時間は、読み手の想像を超えるほどの価値が秘められています。

ぜひ読んで、その価値の意味を確かめてみてください。

式の前日 穂積 恋愛
「式の前日」

(文・ブルネイ)

ライタープロフィール

AFTR5編集部
女の子座りができないブルネイです。
地べたに座るのが苦手、掘りごたつ派。